my農家制度

オーガニックを日常に!「my農家制度」の挑戦

安心・安全が「高級品」の時代は終わった

オーガニックを当たり前にしたい

しかし、自然食品店で売られている無農薬の米や野菜は価格が高く、これだけで毎日の食を支えるのは難しい。そこで彼女は、安全でおいしい農産物を探して、自ら無農薬野菜の生産農家を回った。

「日本ではオーガニックが一つのステータスになっています。でも、それをいちばん必要としているのは、子どもを持つ一般のお母さんたち。毎日のことだから高くては続けられないんです。だから、オーガニックを当たり前にしたかった。世の中になければ、自分で作ろうと考えました」

そんな中、一軒の農家から聞いた話にショックを受けた。不揃いで見た目が悪い野菜はすべて廃棄され、豊作のときには生産調整のために捨てられることもあるのだ。生産者には自身や家族が農薬や化学薬品で体調を崩し、それを機に無農薬栽培に取り組んでいる人も多い。食べる人の健康を想って、より手間のかかる方法で作られた野菜たちが捨てられてしまうことが、何より「もったいない」と感じた。

「捨てるんだったら、買わせてください」。中園さんのその後の活動は、すべてこの一言から始まったという。

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子どもに安全でおいしいものを食べさせたい母親と、安全でおいしいものを作っている農家のために中園さんが考えたのが「my農家制度」だ。欧米の田舎で行われている契約農家(一般家庭が直接農家と契約し、必要なものを年間に必要な量だけ作ってもらう)という仕組みを参考にした。

購入者はどんな環境・どんな方法で作られたものかが分かるので安心できるうえ、通常より安く農産物を手に入れることができる。生産者も必要な量があらかじめ分かっているので、余剰在庫や廃棄の心配をしなくていい。双方にメリットのあるこの取組みは、子どもを持つ母親を中心に口コミで広がった。不揃いで見た目が悪くても、安心でおいしいものが安く購入できるということに価値を認められたのだ。

現在では全国に約600人の会員を持ち、九州全土と沖縄で15の生産者と提携。農産物のほかオーガニックの生活用品も取り扱い、福岡県南東部、うきは市の農場から週3回発送している。九州産で無農薬、という評判から、最近では特に首都圏の会員が増えているという。

 

my農家制度を維持していくには、生産者を支えていけるだけの消費増が必要不可欠。中園さんは現在、飲食店やホテル、企業との取引を模索している。

また、将来の人口減を踏まえ、アジアなど海外への展開も計画中だ。農業の業界全体で問題になっている労働力確保については、人材採用のために海外の現地法人を立ち上げることや、一般の人が収穫などを体験できるファームステイ制度で後押しすることも検討している。

ビジネスへの関心は高いが、利益を上げるということにはあまり興味がないという中園さん。「流通の仕事は、商品を流し続けることに意味があると思っています。価値のあるものを消費者に届け、その対価を生産者に戻すという循環を、止めることなく進めるのが私の役目です」。

 東洋経済 オンラインより~田中純子ライター